渡辺由佳里さんの長編小説をもう1冊。
これもなかなかの作品でした。
ノーティアーズよりも時間はかかったけど、
途中から止まらなかった。
2002年に出版された作品だけど、
実はとってもタイムリーな作品。
アメリカで産婦人科医として病院に務める30代の日本人女性が主人公で
キャリアとか、恋愛の悩みも絡みつつ展開する医療ミステリーで、
なぜタイムリーかと言えば、ストーリー全体のベースになるテーマが、
”プロライフ vs プロチョイス”
人工妊娠中絶を巡るアメリカならではの社会問題だから。
【プロチョイス】
それは、女性の妊娠継続の是非を選ぶ権利=Choice(チョイス)を
尊重すべきであるとする考え方。
特に、虐待などによって望まない妊娠を余儀なくされた女性の
そういった選ぶ権利を守ろうとする考え方だ。
【プロライフ】
これは、妊娠の背景がどうであれ、宿った命=Life(ライフ)を
守るべきであるとする考え方。
アメリカではキリスト教徒が大多数を占めるという宗教的な背景もある。
どちらが正しいか、一概には語れない難しいこの問題は、
去年6月のビッグニュースで日本でも話題になったはずだけど
20年前の小説のテーマになるくらい、アメリカでは根深い問題なのだと痛感した。
日本では中絶したいと思ったら、
病院に行って中絶する権利が認められるのが当たり前。
でもそれが、別の国に行けば当たり前ではないかもしれない。
それを私は去年、そのビッグニュースで改めて認識した。
「憲法が定める個人のプライバシーの権利には、
女性が妊娠を継続するか否か自ら決める権利を含む」
とされて以来、人工妊娠中絶を禁じる法律は違憲とされてきた。
でもそれが、2022年6月24日、最高裁判所の新たな判決によって覆され、
人工妊娠中絶を禁ずる法律が複数の州で成立しつつある。
もし、自分が住む州で禁じられてしまうと、
人工妊娠中絶が認められている別の州に行かないと手術は受けられない。
望まない妊娠をしてしまった女性にとっては、とても恐ろしいことだと思う。
日本での法律の立て付けはこうだ。
刑法では、胎児を堕胎させると”堕胎罪”という罪に問われる。
でも、その例外規定として”母体保護法”という法律が設けられ
一定条件下での人工妊娠中絶が認められている。
この母体保護法は、1996年に名前と中身が改正されて成立していて
ベースとなった法律は、優生思想をもとにした”優生保護法”である点、
現在の条文でも女性本人だけでなく原則配偶者の同意が必要である点、
未成年の場合について親の同意が必要か否かについて規定されていない点など
問題点はある。
それでも「プロチョイス」の行動をとれる法整備があるだけ
アメリカよりはマシな状況なのだろう。
まだまだこのテーマについて知っておきたいことは
たくさんあって、不勉強だけど、
女性も男性も興味をもって知っておくべき重要なことだと思う。
自分の子どもたちにも、いつかちゃんと伝えたいし
知っておいてほしいなと思う。